(監督:あいの是枝)
生と死のはざまで。
淡々とした物語。物語であったのだろうか。それは寓話にも似た詩のような…
虚構の部分と現実の部分が入り交じりながらひとつの大きな話を作り上げている。映画(虚構)としてのストーリーは用意されているのだけれど、そこへ至るためのエピソードをドキュメンタリー(現実)として語っている。そういうつくりの物語である。
もちろん一般に、話とは現実のエピソードをモチーフとして作ることの方が多いのだけれど、この映画においては、モチーフとしていったん分解した後、再構成するのではなく、生のまま映画の中での登場人物の現実の過去として告白される。それがここでは脱映画的な心地よさを生み出している。
映画としては逆にアンリアルな雰囲気を醸し出しているのが、実におもしろいのだ。俳優はもちろん演技をしているわけだが、先に書いたとおり要所々々で語られる思い出はおそらく役者自身の過去であり、だからいわゆる演技的な部分が消えているのである。そしてもちろん素人たちは死者という役割を演じてはいても、生のまま自分であり、自己の人生を銀幕に映し出している。しかもただたれ流すのではなく、あの世に持っていく最高の思い出のために映画を作るというアイディアが客観的な雰囲気を創り出しているのだ。
映画としての多重構造がすごい。メタフィクション的な構成から一転してアクロバット的物語を作る。シナリオの妙なのである。
話は死者の思い出の羅列から始まる。そこから職員たち自身の抱える過去が見えはじめ、それはやがて一人の職員の旅立ち/別れとしてクライマックスを迎えるわけだ。そのきっかけとなる出来事は、全体の流れからすると少々あざといところもあるのだが、全体の流れで浮いてしまうようなことはなく、静かに過ぎていく。
別れのあとの、新しい出会いで締めくくられる物語である。死を描きながら、そこに悲しみや寂しさはない。人生は素晴らしい。