(監督:ホ・ジノ)
最後の1年。3つの季節。
ある青年(というにはちょっと歳がいった)男の人生最後の半年間の物語なのである。恋物語なのである。となれば当然、超ウェルメイドな物語なのである。
一応、悲しく泣ける話ではあるんだけれど、でも見終わった後に残ったのは不思議なことに悲しみではなく一種の爽快感(?)だった。それは“死”を突然訪れる悲劇ではなく、始めから決まっていた運命であったため、そして男が自分の“死”というものに対して覚悟ができており、だからこそ生を大切に送ったせいでもある。
死は運命であったかもしれないが、しかし諦念を抱くことなく、残された人生をいかに生きるかという姿勢が描かれている。そしてその最期において、家族の、そして愛する人の愛に包まれて行くことができたのだ。男は幸せに死んでいけたのだ。
それでも。やはり死は悲しい。夜、布団にくるまり慟哭する男の姿。別れは誰にとっても悲しい。
話は実に淡々としている。死が迫ったひとりの男と偶然知り合った若い女性がお互いを意識し始め、心が通いあったときに死が訪れ、そしてすべては思い出となる。ただそれだけのことをきめ細かく描く。ダイナミックでドラマチックな展開はなく、あくまでも日常の生活がそこにはある。
それを際だたせるのが、情緒感溢れる演出で、小津的ともいえる日常描写の中から登場人物たちすべての生活が(いい意味で)にじみ出してきている。
韓国の四季の変化とともにある男の小さな物語は幕を閉じる。世界はなにひとつ変わることなくいつもと同じ営みを続けていく。しかし男の人生は無為ではなかった。男は幸せだった。最後に撮ったセルフポートレイトにはそんな想いが刻まれている。
『甘い』といわれればそれまでだが。こんなオレは世界の片隅の出来事に心を動かされていたい。