(監督:マジッド・マジディ)
そして運動靴は家にやってきた。
涙々の感動物語ではない。日々の生活の中に起こった些細な(しかし子供達にとっては大事の)出来事、人間模様を描いたトラジコメディ(?)。子供映画、というのは子供が主役の子供ががんばる映画のこと。子供映画には弱いよ、オレは。
子供の視点で子供が感じる世界なのである。妹の靴をなくしてしまったことなど、大人の目から見たら大したことのないトラブルなのだが、子供にとっては大問題なのだ。親にはいえないし、自分たちでなんとかしなくちゃと焦ったり悩んだり。その視点が実にリアルで、ああそうだった、そんな感じだったよなぁと何十年も前の自分の子供時代を思い出させる。
例えばノートでのやりとりや、靴を交換するために走る姿、ドブに流してしまうエピソードなんかの細かいエピソードの積み重ねが実にうまく表現している。
兄妹の距離感がすごくいい。喧嘩するほど仲がいいといいますか、しょっちゅう口喧嘩して文句を言い合っているけれど、でも兄妹。って感じが実によく描かれている。うまく説明できないんだけれど、たぶん実際に兄妹の人だったらあの感覚は絶対わかってくれるんじゃないかしらん。
ラストで、結局妹との約束を守れなかった兄に対して無言で非難の視線を投げる妹ではあるが、たぶん兄弟は仲直りできるのだろう。そう思わせるのだった(でもちょっとカタルシスに欠けるのだけれども)。
イランの生活水準についてあまり詳しくないので、あの暮らしがどれだけ普通なのかわからないので、前半の展開にどこまでリアリティがあるのかわからないのが難点か。それは途中の屋敷外やマラソンシーンなどで、なるほど、彼らは結構貧しい層の家族であることがわかる。だけど子供も大人も人としてのプライドや他者への思いやりの心をしっかりと守っているところがまた泣かせるのだなぁ。
とにかくへんに泣かせに走らないというのがいやらしくなくていい。狙いまくったお涙頂戴映画なんてこっちは観たくないんだもん。