(音楽:ジョンコリリアーノ)
ひとつの楽器が辿る時間と空間の旅。
面白くなくはないが、激賞とまではいかなかった。
そもそもオレは文芸ロマン系にはさほど心惹かれないし、だからこの作品も大して興味がわかなかったので、どういう話なのか全然情報を持っていなかった。
それがよかったのか悪かったのか。ま、よかったんでしょう。
手に取る者を魅了しその運命を狂わせていく、所謂『呪いのバイオリン』的なオムニバスストーリーかしらと想像していたのだ。ところが全然違いました。人を惹きつけはするが、それは呪いや超能力といった超自然的な力でく、それが名器であるがための吸引力なのだ。
各エピソードも“バイオリンの数奇な運命”という程でもなくわりと普通で、長い時間を生きてきた楽器ならばこのようなこともあったろう程度の、歴史の中のわりと目立った位置にいた人達との絡みを淡々と描く。
てなわけで、各エピソードがメインとしてみると平凡な音楽文芸でしかないのだけれど、そう決めてしまうのは早計なのである。実は全てのエピソードは最終章の競売を成立させるための前振りだったのだ。各時代の由来を語り、今現在、関係者がそこに集い、それぞれの理由によって競り落とそうとする。そしてそこにサミュエルLジャクソン演じる鑑定士の企みが絡んでいく。そのクライマックスを引き立たせるための仕掛けが、それぞれの章のあいだに挟まれた競売のシーン。時間を微妙に重ねた演出で緊迫感を高めていく。そういう視点のとらえかたというんですかね。うまいなぁ。
ま、ただ各章は先に書いたとおりドラマチックではないので、ちょっと退屈。
あと、「バイオリンの“レッド”に関わる謎」イコール「なぜ婆は女ではなくバイオリンの生涯を占ってしまったか」についても別に衝撃的な事実というほどのことはなく、予測の範囲内というか当然の結果で、それが描きたかった真実ではないはず。
最終章があってはじめて成立する物語でした。
ともあれ、バイオリンの演奏はどのエピソードでもそれはすごいもので、超見事。バイオリンが好きな人には堪らないだろうなぁ。