(監督/脚本:ポール・トーマス・アンダーソン)
天上よりかえるという奇跡。
実際よくわからなかった。話が難解なのではない。自分が楽しんでいたのかどうかが、よくわからないのだった。
導入部で語られる3つの“偶然”という名の奇跡のエピソード。警句と寓意を匂わせる小気味よい語り口。うまい。観る者(つまりオレ)は、そんな奇跡が起こる瞬間を描いた映画を期待したのだった。が、しかし。
群像劇である。一見何のつながりもない人々がそれぞれの人生のどこかで出会い、別れていく(実はそれこそが“人生”と言い換えることもできるのだが)。そんな人生の断片図をさらりと描き出している。
大団円的なオチもなく、感動のクライマックスが待っているわけででもない。そもそもそんな着地点をめざして語られる目的を持った映画ではないのだと思う。あくまでも、普通の人々が人生の中で出会うひとつのエピソードの点描。これがやりたかったことなのだろう。
唯一、異質な出来事となる空から降ってくる“あれ”。あまりにも突拍子もなく、それまでの話の流れから浮いてしまっているが、だからこそ、どうしてもその意味を見い出すことに捕われてしまいがちである。でも実はそこにはなんの意味もない、のだと思う。あえていうなら無意味であるからこそ意味があるとでもいおうか。
どういうことかというと、人がのっぴきならない状況でテンパッているとき、突然予想もしない出来事に遭遇したりすると思考が停止し無心になる。ただそれだけのことである。緊張と弛緩、その瞬間を描きたかっただけなのではないか(いってることがわかりにくい? オレもよくわかってません)。
観終わった後に心になにも残るものはなく、結果的にオレはその完成度に対しては不満を感じたのだが、おそらくそういう感想を持つ者もいるだろうということを承知の上で作られた確信犯的作品のような気もする。