(監督:飯田譲治)
残された時は少ない。
ネタ自体は悪くない。超自然系のサイコミステリーといったらまさにオレツボスイートスポットである。ラストの純粋な愛情こそが人類を救う的なオチはちょっと甘すぎて違和感がないことはないが、それは好みの範囲内で、十分許せる。
この奇妙な事件を、話はグロテスクに、しかし描写はスマートに描ききっており、ビジュアル的に魅せようとする試みは、まさに見事に成功している。例えば、残酷な殺人現場は血みどろであるにもかかわらずどこかユーモラスで、嫌悪をいだかせない。クライマックスでの水と炎のタイプの違う透明感なども見事。つい引き込まれてしまう。 全体的に熱に浮かされたような、自分が自分でないような、変な高揚感を持った雰囲気を最後まで失速させることなく持っていけている。
ただ、ひっかかった点がないわけでもない。それは“物語”を語ることに気を取られすぎて、そこに登場する人々の心の動きまでをきちんと描ききれていなかったところだ。全然だめというわけじゃないが、そう感じるところがいくつかあり、オレはそう思った次第。
この物語は『愛情』や『悪意』という、まさにヒトのココロをモチーフとしており、そのためには、登場人物のココロをもう少し丁寧に描いてもよかったのではないかと思う。
具体的には感情の動きの布石が浅いということだ。ストーリーをみせる上での伏線だけではいけない。登場人物がどうしてそういう行動をとるに至ったのか、どうしてそういう心境に至ったのかということをリアルにするための伏線というものも実は重要なのである。それがないと単に話を追うだけの浅い感じになってしまう。
あるいはそれはメディアミックス展開をしているために、必要以上に登場人物を出していたり、本編には直接関係ないエピソードが挿入されたりして、話の流れがよどみ、そこいらへんが違和感につながり、また時間も無駄に費やされてしまうことで、そんな弊害がでているのかもしれない。
が、それでも“つまらなかった、ダメだった”なんてことではなくて、とても楽しめたのであった。
話はわりと単純。
“悪意”がテーマであるというが、実はオレは悪と云うよりは“無邪気”について考えた。現実の社会/常識/モラルに縛られ、面白いことを純粋に楽しもうとすること。社会的からにみればそれは悪いことであるが、とうの本人にはそれは善悪は関係ない。というよりもそこまで意識が及んでいない。それはすなわち“無邪気”ということだ。
我々も動物にちょっかい出して反応するのを見るのが楽しいでしょう。天からきたナニカからみると、まさにそれと同じことで、人間が右往左往する姿を見て純粋に楽しんでいる。そういう状況の話である。だからこそ「私は人間だ」という科白がでてくるのではなかろうか。
で、そんなナニカは退屈な自分の世界より訪れた堕天使というところだろうか。安定した退屈よりも混沌/変化/進化を、いろいろな感情が渦巻く人間の世界こそを、求めてやまない存在。また、それはエントロピーの増大に対する反逆者でもある。
なんかきれいにまとめられないが、そういう感じかな。
とりあえず、見逃さずにすんでよかった。と云っておきましょう。