(監督:市川崑)
どーんなもんだい、ボク、どら平太。
小品である。
本当に小さな話なのだ。だから娯楽大作的な気分で観に行くとはずす。逆に、もう気軽にショートショートを読むような気分で観れば楽しめるはずだ。もとより原作自体が短編なのだからそれも当然なのかもしれない。話の内容自体が軽妙なので、気構えて観ると肩透かしをくらう、ともいえる。
さて。話がやや散漫にみえるのも小品であるせいなのだろうか。どれだけのエピソードが付け加えられているのかはわからないが、あまりにもあっさりしすぎである(あるいはそのまんまなのか?)。
もっと策を巡らせての権謀術数満ち満ちた、身体も使えば頭脳も使う丁々発止のかけひき。というふうな感じの痛快活劇を想像していたのだ。が、仕掛も罠も策略もほとんどなし。なんのことはない、真っ正面体当たりでケリがつけられる。
主人公は、いろいろ作戦を練って暗躍しているようで、その実、場当たり的の出たとこ勝負な行動なのが見え隠れする。例えば、お忍びで壕外に潜入するのはいいがその行動があまり意味をなしていない。とりあえず悪玉3人の子分を味方につけはしているみたいだが、だからといってそれを活用しているようにもみえない。
見せ場らしい見せ場といったら、親分の屋敷からの脱出大立ち回りということになるのだろうが、パターンからいえばその後、大ボスとの対決みたいなものがあってもいいだろうに、なんもなくあっという間に降参しちゃうんだよな。
小品たる所以のもうひとつの理由は“巨悪の不在”ではなかろうか。相対する敵が小者であれば、その分、事件もすんなり解決してしまうのは当然といえば当然だろう。あからさまに悪い奴がいない。誰もが少しずつ悪いことをしている。私利私欲を太り肥やすためではなく、片田舎の小藩を守るための必要悪だと思ってやってしまっている。責任の所在がない故の悪とでもいおうか。だからちょっと問い詰められると脆くあっさりと自滅する。実に現代的だなと思った。
閑話休題。市川崑演出は冴えに冴え、黒を基調とした陰影の濃い画面づくりやアップとロングの切り返し、ケレン味あふれた決めシーンなど、市川節爆裂でいかしまくり。ただその重厚ともいえる演出に、ストーリーのも持つ軽妙なムードがマッチしているとはちょっと言い難かった。
別にこれはこれで悪くはないと思うれど、軽妙な話ならもう少しスピーディに描いてもよかったように思う。
まあ、気張らずにさらっとした話だし、さらっと観る分には全然文句はなかった。