(監督:ミロシュ・フォアマン/出演:本人多し)
オレの生き様みせてやる〜!
ジム・キャリー主演のコメディアンの伝記とくれば笑える映画をどうしても予想してしまうようだが、これはそのような単純な話をめざしていたのではない。これはとても切ない映画なのだ。
もちろんそれは悲劇だからでも人間賛歌の物語だからでもない。そういう浅いお涙頂戴ものではないのだ。これは『自分の笑い』を追い求めてしまったコメディアンの物語である。自分のめざす笑い(あるいはエンターテインメントと言い換えてもよい)が理解されるか否かは必要ではなく、自分がこれが面白いのだと信じるものを演じる、演じるしかないあるひとりの異能者のたどった人生。そういう生き方しかできなかった“業”が切ないのだ。
オレは悲しいことにアンディ・カフマンを知らなかった。で、今回その芸風を見て思ったのは、そこに今あるお笑い(バラエティー?)の原点があるということだった。アドリブ優先の体を張ったリアクション芸人的部分や、素人をいじって笑いを誘う毒などの具体的なものもそうなのだろうが、それよりももっと重要なのはタブーの否定、予定調和の排除といった思想に、よりルーツを感じる。そしてそれはまさにイバラの道であったに違いない。
オレ自身は(ひとまわりしてかえって)ベタな笑いにシンパシーを感じてしまうタイプなのだが、ハプニングとサプライズを求めようとする気持ちとてもよくわかる。
映画化にあたりアンディ・カフマンの人生をどれだけ史実にのっとって描いているのかが知りたいところである。年表をみる限りでは時間やエピソードの組み合わせに多少のフィクションが入っているようだし、そもそも一人称の映画である。そこに描かれているのが客観的な事実であるかのかどうかすら実は怪しい。エンディングでも本当に死んでいるのかどうかを曖昧にしているし。
もっともそれはあえてそうしているのだろう。オープニングであらかじめ本人がそうなんだよと断っているのだから。
オリジナルのカフマンを観たい。