(監督:アン・リー)
信は真に通ず
正統派な武侠映画なのである。なのに漂うムードは全然殺伐としておらず、限りなく叙情的で美しい。話も破綻することなくあまりの破天荒さに鼻白むこともない。これは実に丁寧にきちんと作られていてこそ出来る技なのだろう。
その分、作品自体にはアクションムービーとしての熱気はあまりなく、パワフルでガンガン押しまくる型のアクション映画を求める向きにはあてがはずれてガッカリということもあるかもしれない。でも少なくともオレは満足できたのだから、外野の声などどうでもいい。
正統派ではあるが典型的な話では決してない。強い剣士は出てくるが悪役敵役はいない。戦いはあるがそれは武の道を極めようとするが故のもの。そう、これは求道者達の物語なのだ。
だからそのストーリーは大仰なものではなく、ひたすらに登場人物のそれぞれの想いだけが綴られていく。剣の道を捨てようとする男。男を待ち続ける女。剣を極めようとする女。少女を愛し続けようとする男。そしてその結末。それは物語の終わりではあるが、剣の道と人を想う心に終わりはない。
というわけで、アクション一辺倒ではないのではあるが、だからといって見どころなしというわけではない。いやむしろこのアクションを魅ろ、と言ってもいい。ワイヤワークをこれでもかというぐらいに使い、リアリズムなんか度外視、多少のウソくささも味わいのうちとばかりに跳ねまくる飛びまくる。
前半のふたりのヒロインの深夜の追跡劇や田舎の酒樓での大乱闘。ぶつかり合う肉体、火花を散らす様々な武具。舞台となる空間を見事に使いきり、目まぐるしく且つ淀みない決闘シーンを作り出している。そして何よりもクライマックスの竹林での戦い。あれほどまでに叙情的で幻想的なアクションシーンが今はであっただろうか。ここに監督の腕の冴えが発揮されているといっても過言ではない。
アクションが見どころだが、その本質はアクションではなくエモーショナルなドラマであり、だからこそ観終わって残るものがあるというものだ。