(監督:原田真人)
兄さんの子は弟、兄さんの孫も弟
田舎の土俗的な香りをその風景とともに堪能することができた。
スーパーナチュラルではあるがホラーではない。怖くない。そして怖くなくてもいっこうに構わない。なぜならこの話の面白さは“怖さ”にあるのではなく“物語”にあるからだ。どんな物語か? それは愛と執着の産んだ悲劇である。
はじめは、“狗神の存在”はデフォルト設定(いてもいなくても大勢に影響がない)でその存在の真偽は物語には関係なく、狗神という神がいる社会で起こったひとつの一族のドラマであると思った。そしてそれは正しかったのだが、しかしそれだけではなく謎(あるいは秘密といってもよいが)もきちんと用意され、かつ物語を進め盛り上げるための回答も行われるのである。話を牽引する狗神の謎や家系の謎が、謎として機能し、物語にきちんと絶妙に絡むことによって、ドラマとしての膨らみがでてきているのだ。
とはいうものの、結局狗神それ自体は狂言回し的存在で、その正体は(匂わせてはいるが)明らかにされない。もちろん明確に表現することもできたのだろうが、そうすることによって視点が狗神に移ってしまうことを避けたのだろうと思う。なにしろ話はあくまでも『ある一族の悲劇』なのだから。
ドロドロの人間関係を描くことは、ともすれば3面記事的下世話になる危険性があるのだが、スーパーナチュラルの味つけ加減や、人の想いをきっちりと描き切ることでうまくいっている。
ま、難点もある。科白が聞きとりにくい。テンポが遅くのりにくい。などがそう。
でもだからダメという程ではないし、なにより最後まで緊張感を削がれることなく観ることができたのだ。
ラストで二人の運命は明らかにはされていないが、それは観る人それぞれがハッピーエンドにでもサッドエンドにでもしてくださいということなのだろう。もっとも生きていても死んでいても真のハッピーエンドではないのがこの話の悲劇である。