CHART-DATE : (2001/04)
作品
哀しき天才
… サトラレ

(監督:本広克行)


お話

 あの子はただ人より声の大きい正直者… ってそんなまとめでいいんか?!


お話

 不覚にも大泣きしてしまいました。いやはやトシとったもんだ。おかしくって、やがて涙がポロリ… という、もう究極必勝パターン。エンターテイメントの王道だよ。

 前半は“サトラレ”という存在がおこすであろう奇妙なトラブルというシチュエーションコメディの部分を前面に出し、とにかく笑わせる。例えば、病院内でのサトラレと、患者や同僚といったまわりの人々の関係や、特能委の大仰な隠密行動など、つかむところはとことんつかんでくる。しかも単に笑かすだけじゃなくて、サトラレの抱える本質的な悲劇もきちんと伝わってくるのがうまい。
 そんなこんなでいろいろと話は進み、そしてクライマックスの手術のシーンでは完全に感情移入してしまっているオレなわけです。もうツボにはまりまくりの泣きまくり。ちなみにオレはいままで痛し痒しだった関係の病院内の人々の想いがひとつになった瞬間にグッときました。

 冷静に考えればかなり無理のある話ではある。サトラレという設定自体の持つ無理さについてはとりあえず「国益のために絶対に本人にばれないようにする」というエクスキューズはさてれいるが、それでもかなりきびしい。また、その部分をよしとしても、今度はサトラレという能力を持つ者を守るためにあれ程の国家予算を投入する価値があるのかなどの問題もある。こちらもそれなりの「知能という部分だけではなく、手先の器用さや判断力、機転、独創性、その他もろもろの、全ての部分において普通人よりも圧倒的な差がある財産」というエクスキューズはあるが、いまひとつあっさり流されてしまっている。
 もっとも、あくまでも「無理がある」というのは冷静に観ちゃえばのはなしであって、映画の持つテンションにうまく乗ってしまえば全然気にならないのも事実だ。

 エンディングも脳天気なただのハッピーエンドではなく、余韻の残る幕切れで、実に抑制がきいている。うまい。ホロリ泣ける。


お話
  1.  全編に渡って本広演出らしさ満載。冒頭の自衛隊シーンや特能委のモノモノしさなんかも実に本広調で、これがうまく内容にはまっていて気持ちいい。ただ、あえていうならステディカムのまわり込みが多すぎるような気がしないでもないかな。
  2.  そして舞台となる奥美濃こと郡上八幡の風景。いかにも日本の原風景を励起せずには入られない。そんなしっかりとした受け皿があってこそサトラレというバカネタ(失礼!)もリアルに生きてくる。
  3.  実はこの映画、オレにとってはとーっても怖い映画であった。
     十代の頃のオレ。「自分の考えが全部まわりにきこえていたらどうしよう」とかなり本気で考えていたときがあった。もちろんそれは十代ならではの自意識過剰のなせる技。そして、あまりにも人にはいえないようなことばかり考えていたから。若かったんだねぇ。
    (実際のところ。妄想がすぎるのはいまでもあまり変わらない。が、恥知らずになった分、人に知られても平気になった。あ、それがオヤジになった証拠ってことか)
  4.  映画の中でそういったドロドロとした生々しい妄想部分があまり表立って描かれていないのは、意図的だなぁと思うところもないわけではない。もちろん症例0号がある程度フォローしてはいるが。
     もっとも、まっすぐ育つというのもサトラレの能力の一部であるという考え方もできるし、そういうふうにまわりが育てたのだという考え方もあり、だからドロドロがないからリアルじゃないというのもまた違うだろうとも思うのだった。
  5.  八千草薫である。あんな風に上品に歳をとっていきたいものだ。と、これも十代の頃から考えていたことなんだけれども。

お話
★★★★

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