(監督:カリン・クサマ)
捻りこむようにして、打つべし、打つべし、カエルだべし
頭がよいわけでもなく、あるのは力だけだがそれをどう使えばよいのかはわからず、それでも何かをしようとする気だけは焦るが、その何かはいまだ見つけられない。自分という存在を持てあまし、「自分はここにいる」ということをどうやって伝えていいのかわからない。
そんなひとりの少女が、ボクシングをやることで大人になっていく話。
一言でいってしまえばそういう話。“青春”という時期を描く話はみんなそういうもんでしょう。
モチーフが格闘となれば、描きかたによってはとても“アツい”話/映画に持っていくこともできただろうし、そのほうがスタンダードだろう。しかし、この映画は闘いを(正しくは勝負の行方を)前面に押し出さず、逆に一歩引くことで、激しさよりも秘めた強さという表現を選んだのは正解だと思った。
ただし、それも痛し痒しなところもあって、全編をとおしての明確な敵/ライバルが設定されていないため、少女の目標とするものが分かりにくい。多分、アマチュア大会優勝ということなのだろうけれど、そこへ至るまでの勝ちのぼっていく達成感がなんとなく感じられないのだ。それは少女の強さが明確に示されないため、観客も「強いんだな」と納得できないせいでもあろう。
結論をいえば、佳作といってよいだろう。しかし、心情的にはあまり好きな映画ではない。
基本的にボクシングって好きになれないんだよな。ただの殴り合い、とまでいうつもりはないけれど、“ハングリー精神”という名で美化された、所詮は単なる“猛々しい闘争心”ばかりが目立って、というかそれしか感じられず、精神面の強さ(負けないという意味ではない)がない。成熟しないというか、要するに功夫が感じられない格闘技なのだ。“自分という存在”を磨くのではなく、“相手を倒す技”のみを鍛えているというような感じ。結局、乱暴者のなれの果てみたいなイメージなんだよな(偏見なのは承知の上で)。
ま、そういうマイナス要素を持ってして、そこそこ観れたんだから悪い映画じゃなかったのだろう。
主人公。あまりにもふてぶてしい顔をしていてダメ。そういう描きかたをしているのだから仕方がないともいえるのだけれど。面白いのは普段はとても憎たらしい三白眼だからそうみえてしまうのだが、好きな男といるときには、それなりに可愛らしくなるところ。さりげない演出が光るところでもある。
あと、時間の経過とともに少女の身体がどんどん『戦う身体』に出来上がっていくところが凄いね。背中や二の腕などの筋肉のつきかたが特に顕著だけど、あれってやっぱすんごいトレーニングしたんだなぁと思うのだった。