(監督/脚本:三谷幸喜)
祝新築! イェ〜!
シチュエーションコメディと一言でいっても、その質は多様だ。単純な笑い、ほのぼのとした笑い、いろいろなタイプがある。
で、三谷幸喜。
三谷作品はコメディである。しかしその質は“ドッカーン”とくるギャグに溢れたわかりやすいおかしさではない。確かにそれ系の笑いもあることはあるが、それはあくまでも添え物、打ち上げ花火的ギャグはメインに捉えてはいない。そして単純に提示するのではなく、一周まわっちゃって結果一見ストレートに見えるだけなのだ。
かといって、「心暖まる優しい笑い」でもない。これまた一見そんなタイプのコメディに見えるが、実はかなりのシニカルでブラックな毒に満ちている。だから、わかりやすいハートウォーミングなライトコメディを期待すると、
「ちょっと違うかな」と感じてしまうことろも多いのではないか。
しかもまったく違うタイプならともかく、見た目傍目にはハートウォーミング系の皮を被っているので余計たちが悪い。毒気を出すなら出すでもう少し分かりやすく出せばいいのにと思うところも多く、その辺で損をしているなぁと思う。
そのもっともたる部分がクライマックス。大工とデザイナーが嵐の中で… となれば二人で協力して家を守って、というパターンで観客をホロリとさせる常套手段をとるのが普通だろうが、何故か壊れた家具を直すという(絵的にも)ミニマムなネタに展開していく。
(もっとも、嵐で壊れるような家なんて冷静に考えれば非現実的であり、家を守るクライマックスというのは実はかなり正しいのだが)
そして、さらに話は変化する。二人の共感の描写が、実は二人の心がひとつになるというカタルシスではなく、本当にやりたかったのは、そんな二人に焼餅を焼く男の奇妙な愛情なのである。なんてわかりにくいオチなんだろう。
もともとカルチャーギャップをネタにするコメディには「強者(マジョリティ)が弱者(マイノリティ)を笑う」という、かなり一方的で残酷な『強者の論理』で成り立っている部分がある。それはある意味仕方のないルールではあるのだけれど、あまりにもあからさまだと、どうしても下品な内容となり観ていて辛い。
その点、「みんなのいえ」は、笑う側と笑われる側の立場が巧みに入れ替わっていき、うまくまとめられていると思った。
コメディとは、イコール妄想が暴走するスラップスティックではない。しかし観客からすれば、その手のシーンのほうが食いつきがいいウケるポイントであることは確かであり、そんな笑いツボを微妙に外されると、「おっかしかったなぁ」といいながら気持ちすっきりカタルシスで、劇場を後にするようなことにはならないのではないかと思うのだった。
あ。勿論、けしてつまらなかったというわけではないということは最後に云っておきたい。