(監督:行定勲/脚本:宮藤官九郎)
これは、僕の、恋愛に関する物語だ...
青春である。でもって云うまでもないが、それはけして楽しいだけのものではないのだ。
ズシリと深いテーマを持ち、それを持て余すことなくきっちりと正面きって受け止めている。にもかかわらず、軽やかに青春の物語を語りきってもいるのだ。それは原作の持つ力でもあるのだろうが、それをより魅力あるものにしているのは脚本、宮藤官九郎の力だろう。
なにより脚本が面白いのだ。
アンチリアルなリアリズムに満ちた脚本は、微妙に時間の感覚をずらし、心象風景を具象化する。登場人物に安易に感情移入させて泣かせようなどという安っぽい勝負はしない。饒舌な無駄話も実に今っぽく、いかにも宮藤らしさが全開している。
それに応えるかのようにクールな演出がばっちりはまり、青春群像なんかくそくらえという気構えがビシバシ感じられたのだった(買いかぶりすぎ? オレ)。
他人から強制されたり拘束されたりすることを極端に嫌うオレにとっては、主人公杉原の民族学校やニホン学校の閉塞感に(半ば本能的に)反発してしまう姿にシンクロする。
それは体制や思想、あるいは差別や誤常識に対する反抗という単純なことではない。良いとか悪いとか、正しいとか間違っているとか、そういうレベルの話ではない。既存のレッテルでカテゴライズする無意味さをふき飛ばせ。
「自分は“自分”だ」
ただそれだけ、アイデンティティの物語だ。
身の丈で考えさせられる民族や差別についてリアルで誠実に向かい合い、問題提起もしているが、そんな堅苦しいテーマを前面に出しつつ語られる物語であるにもかかわらず、鼻白むことなく見ることができたのは「そんなもの飛ばせ!」とイージーな枠組み(思考)を乗り越えていこうとする主人公の、そしてまわりの者たちのパワーに満ちているからだ、と思った。