CHART-DATE : (2001/11)
作品
死せる詩人の物語
… みすゞ

(監督:五十嵐匠/写真:荒木経惟)


お話

 きたか ちょーさん
 まってた どん


お話

 みすずの詩は確かにすごい。言葉の語感、リズム感、鮮烈な言葉の力を感じる。
 ただ、一見可愛らしく微笑ましい童謡のようにみえるが、実はピュアな優しさというような一般的な認知とは違っていて、自分が普段おもてに表すことのできないものを形を変えて吐き出しているようなそんな印象をオレは受けた。
 だから朗読をするときに、子どもに語りかけるようなあの独特の云いまわしには違和感があるのだ。もっと心の澱を吐き出すような叩きつける冷徹なそれが相応しいのではなかろうか。だからラストの一遍の詩の読み方は実にしっくりとはまり、この哀しい物語を締めくくってくれた。

 主人公『金子みすず』が一般的に認知されている(と思われる)ような純粋な魂の持ち主的な描かれ方がされていない。そんなある種の理想的な人間ではなく、逆に精神の一部に欠落のある人間となっている。それは、現実にまっすぐに向き合わず自分の世界だけをキープできればあとはどうなってもいい。そんな一見、物分かりのよさそうな、その実、自分の殻を作り出し、そこから絶対に外には出ようとはしない、自閉的な生き方である。
 そして、普通の感情や感性、常識判断、これらがない。
 そんな人が唯一の煌めきをみせることのできる詩の世界、それすらもままならぬ現実。観ていて痛々しい。
 話が進むにつれて、みすずと他者との違いは、意識の差であるとわかるのだが、そんな生き方に流されているみすず自身に対して、じれったさや苛立たしさすら感じる。

 演出上、ストーリーが時系列に語られていないので、わかりにくいところもあり、また、話の上ではそういう生き方を選んでしまう理由は(ごくうっすらとは示されるが)一切触れられていないので余計そう思えるのかもしれない。
 結局、あのような意識を持つ者ではあの時代は生きること自体が難しく、それ故の結末であったということなのだろうか。


お話

 パンフの写真がいいなと思ったら、なんのことはない天才アラーキーでした。うーん、やっぱうまいよなぁ。


お話
★★★ ☆☆

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