(監督:スティーブン・スピルバーグ)
夢の中で起こる日常。現実感喪失未来。
予想外に面白かった。もっと大味でガチャガチャした感じかなと思っていたのだけれど。
まがりなりにもミステリーとして、それ以前に、話として成立しているということが観客の興味を引っ張っている。話に求心力があるのだ。
斬新ということではけしてないが、未来観が納得のいく形になっているのもよい。ガジェットの使いかたとか、各種の制度の見せかたとか、いかにも未来にありそうで、かつチープに堕していない(いかにもなつくり物っぽくない)ところが上手い。
ここのところにおいて久々の面白いSF映画といっていい。
ただし! あのラストはどうにもいただけないね。とってつけたようなあの終わりかたでは、あれひとつでそこまでせっかく組み立ててきた世界観を、すべて台無しにしてる。
この映画は『どこでおしまいにするか』ということを、勝負されているのだろうか。
例えば、「アンダートンの逮捕」によってバッサリと終わってしまう、ビターエンドなハードボイルドタッチ&時間軸絶対のSFとして完成させることもできる。
あるいは、「所長の犯罪を暴きだし」て終わるという、ハリウッド的ハッピーエンド解決のSFアクションとして終わらせることもできるだろう。
実際、どこで切っても、それなりに話として成立するようなところがあるわけだ。
しかし、なのにあえて、蛇足も蛇足のあんなエピローグをくっつけた意味はなんなんだろう。なんとなくわかる気はするが、それはそれとして、あの終わり方を見せられたせいで、展開のアラが浮き彫りにされてくるわけだ。
プレクライムのシステム自体は、社会的に否定されていないわけで、故にあんな形であっさり解体はしないだろう。どんなに所長や所員が犯罪者となったとしてもシステムは残るのが普通だ。解体させるならさせるで、もう少しエクスキューズをしっかりとやらないと実にとってつけたような印象だけが前面に出てしまうのだ。プレコグの予知(変な言い回しだな)が絶対ではないことからくる社会の変化や、プレクライムが市民からどう思われていたのかの部分、プレコグの人権のとらえ方など、もっときっちりと詰めておかないと、単なる甘ちゃんで上っ面だけのハッピーエンド風の情緒に流れてしまう。そして、それは全編を通じてのハードボイルド風なクライムアクションとは、相容れないのではないかと思うのである。
と、いくらでも不満はあげられるのだが、ラスト数分さえ我慢すれば実に満足のいく作品なんだよな。