CHART-DATE : (2003/12)

題名

The suspect;
… 容疑者 室井慎次

(監督/脚本:君塚 良一)

お話

 きりたんぽ鍋が食べたくなる。画面には出ちゃこないんだけど。

感想

 凄い。ちょっとビックリした。ここまでガチガチのポリティカルサスペンスになるとは思わなかった。法廷劇でもあるし、組織劇でもあるし、もちろん刑事ドラマでもある。でもって、アクションシーンは全然ない。ただひたすらに重厚な“警察”のドラマが展開していく。なのに全然退屈するところがないのだ。
 なんだろうね。やはり長年の歴史による確固たる人物造形(製作者側も観客側も、彼がどういう人物であるかを知っていること)が、働いているのだろうが、しかし、この作品においては、そんなキャラ設定に頼らず、ストーリーによって映画を牽引している。だから次にどうなるのかの緊張がとけない。惹きつけられる。面白い。そういうわけだ。

 ま、アラはないわけではない。田中麗奈演じる小原久美子が若く有能な弁護士でないのは、いいとして、しかし活躍しているのかしてないのか曖昧だったりするのはちょっと甘い。曖昧になってしまうのは、ストーリー展開上の人称が、あやふやになっているところがあるせいだと思うのだが、それは群像劇という性格上仕方がない。しかたがないとはいえ、それぞれのキャラが、あまりにも主張し過ぎていて(各人が手際よくまとめられてもいるのも事実は事実なんだけど)、しかし主役級であるがゆえに、小原久美子という存在がクライマックスにかけて小さくなってしまった(極論すればいなくてもいい)気がする。
 といってはみたものの、そんなに顕著なアラというわけではないな。そんなに目立つ違和感でもないし。

 警視庁と警察庁、所轄と本庁、弁護士と弁護士といった、さまざまな対立構造が多いため、かなり入り組んでいることは確かで、だから、実際「よくわかんなかった」という声も劇場内では聞こえた。自分自身も、話についていくのにけっこう必死だったりもしたが、でも理解不能ではなかった。むしろ、これだけの対立要素、内容を盛り込みつつ、そして最後まで緊張感を引っ張りつつ、しかもきちんと話を決着させたことはお見事といってよい。
 クライマックスにおいて明かされる事件の真相は、さほどに“驚愕の事実”ではなく、あまりにも平凡で、そんなくだらない事件のために翻弄されてしまうバカバカしさが、ビターな結末を浮き立たせる。それがまた、この『組織の物語』には似つかわしいのかもしれない。

 ともあれ、『踊るレジェンド』は続く。終わってほしくない伝説である。今のところは。

補足

 パンフに、かの「潜水艦事件」の全貌が書かれていたのが、すっごく嬉しかった。そうか、そういう話だったのかぁ!

星取

★★★★

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