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バスで士林駅へ戻る。昼食時ってことで近くの飯屋に入る。はじめは魯肉飯にするつもりだったのだが、排骨飯を食ってる人がおり、それがえらく美味そうだったので急遽予定変更、排骨飯とワンタンスープにした。これが大正解、スープも排骨もメチャウマ。で、あっという間に平らげてしまう。正直、昨日の夕食より美味かった。やはり下町の(って山の手なんだけど)ざっかけない飯のほうがいいんだよなぁ。人間が安くできているのだろうか。
そんなこんなで、もう午後1時半。いや、まだ1時半か。まだまだ時間がある。そしてプランはまったくない。どうしようか、とりあえず、街に戻るか? と駅に向かいダラダラと歩いているうちに、ふと、陽明山へはこの駅からバスが出ていることを思い出した。山かぁ、いいかも。しかも陽明山には温泉がある。そうだ、行ってみるか。このことを予感していたのか、タオルはバッグに入ったまま。これだ。と、さっそくバス停に向かう、といっても数メートルも離れていないのだが。で、なんとタイミングのいいことにちょうど陽明山行のバスが到着したところ。なんという幸運、というよりもむしろ運命? 大げさか。と、ひとりでテンションを上げつつバスに乗り込むのであった。
バスは20分あまり、急な登坂をグイグイと、右に左にに揺れながら進んでいく。少し走るだけで、それまでの街中の風景があっという間に山間部のそれに変化する。山の中と行っても、“人里離れた”というよりは“高原の別荘地”というイメージだ。途中に大学が数校あるようで、観光客よりも生活者が多いようでもある。
そういうするうちに、終点の陽明山に到着。ビジターセンターへはそこからさらに15分ほど歩いたところにある。車道沿いを抜けて遊歩道へ入ると、突然、山モードに切りかわる。市街地近くの低山公園とはいうものの意外とせまく厳しい、なかなかどうして気合いの入った山道である。見かたを変えると普通の人はこのルートは使わない、ということなのかもしれない。それもそのはず、あとでわかることだが、公園前には大きな駐車場があり、普通は自家用車で、そうでない場合も観光バス。オレのように路線バスで来た人も山内の周遊バスに乗り換えできるので、歩く人はめったにいないということなのだった。もし本気で山歩きしたい場合は、ビジターセンターからさらに先に進み、ピークアタックなども選択できる。少なくともバス停から山道を使う人はいないらしい。どうりでバスの乗降客数に比べてすれ違う人数が少ないわけである。
だからといってルート選択を誤ったのかというとそうでもなかったのである。少ない距離ではあったがけっこう山気分を味わうことができたからだ。
ビジターセンターに到着する。オレの希望としては2時間程度でピークアタック、とまではいわないが山歩きっぽいことができればというところ。とりあえず、公園のガイドと相談する。お互いが片言英語で全然意志の疎通が難しい中で、不如意なこと甚だしく、言葉の壁は超えがたい。そのうち、他の日本語がわかったり英語がわかったりする観光客などが一緒になって、どんどんことがでかくなっていく。親切に感謝しつつも少々心苦しくなるが、そのおかげでとりあえず必要なことはわかった。
簡単に云ってしまうと、無理な注文だったということだ。山頂近くまでいくつもりなら2時間ではかなりハードな行程になりそうだということ。そして、時刻が3時近くになっており、山中で日が暮れてしまう可能性があること。さらになにより、一応スニーカーではあるが、きちんとした山行の格好ではないので、厳しいだろうということ。
これが午前中だったら、もっと山頂近くまで行く巡回ミニバスで行って、ピークという選択肢も当然あったのだが、如何せん思いつきでの行動には自ずと限界があるということだ。で、結局、陽明公園内をハイク、という普通の結果になった。
園内を普通に、と簡単にいうが実はこれがけっこうな運動なのだった。公園は広かった。いわゆる庭園風の公園が広がってはいるが、それが思った以上に奥深い。しかも公園そのものはこの庭園だけを指すのではない。そもそも山自体が公園なのである。国立公園という名はダテではないのだ。
とりあえずの目標は庭園の先にある花時計だが、ここにたどり着くまでには、車道を縫うように延びる山道を延々(といいうほどでもないが)と、進まなければならない。ビジターセンターから花時計公園までは、山筋ひとつずれた位置にあり、尾根ひとつまく配置なのだった。
青空も見えている好天なので気持ちはいい。陽明山は花の山と云われており、確かに時期は少々早いもののそこここにカラフルな花が咲いており、それらを観ながら歩くだけで結構楽しい。
花時計に到着すると、こっちはこっちで観光バス自家用車等々、乗りつけてきていて、ちょっとした人混みになっている。あまり長居するような感じではなかったので、小腹が空いたってことで、おやつに屋台のお姉さんから、揚げた臭豆腐を甘辛風のたれをさっとくぐらせたものを購入する。一度は食さねばと思っていた臭豆腐だが、思ったよりも臭くない。もともと臭い系食材は好きなので、ちょっと物足りないくらいだ。しかし香ばしく発酵した豆腐は暖かく美味。これをほふほふと味わった。