G式過剰



第2ステージ
『闇に浮かぶ白い…』

 オレと陽気なバカ友達は、しょっちゅう旅行に行っては煩悩を放出している。
 で、今回の行き先は四国、四国の上半分、というか瀬戸内海サイド。テーマは『道後温泉とお遍路と讃岐うどん』。ということで、予想だにしない豪遊をしてきた。

 さて、今回はそんな四国珍道中で起きた嫌産噺である。

 高松での宿はとあるビジネスホテル。GW中ということもあり、各自別々のシングルルームである。少々値ははるが、自分の時間が作れるのでそれはそれでよかった。問題は部屋自体にあったのだ。

 その夜、小粋な創作小料理屋で瀬戸内の美味美酒を堪能し、へべれけになったオレは心地好い気分のままベッドに倒れこんだ。普通ならば朝まで泥酔するはずだったのである。
 ところが。
 こんな夢を見た。
 ドアをノックする音で目が覚めた。しかし眠かったオレは「知るか!」と無視。するとノックは次第に強くなり、ついにはバン!バン!と手を力一杯たたきつける大きな音になっていった。このときオレは、うるさいとは思いつつも、いまだ眠気の方が勝っていたため、「これは夢である」と決めた。
 と。音がやむ。そしてドアが開いた。鍵がかかっているはずなのに。ただチェーンロックのおかげで全開はしない。そのすきまから手が差し込まれてきた。暗がりの中でその手だけが生気の感じられない青白さで浮かび上がる。手は激しく上下に動く。どうやらチェーンロックを探しているようだ。
 部屋に入ってこようとしているのだ!
 オレはさすがに怖くなり「誰だ!」と叫ぼうとするのだが、しかし喉からは“ひゅーひゅー”と息が漏れるだけで、声にはならない。

部屋の構造

 気づくと、それはやはり夢だった。部屋のドアにはチェーンロックなどついておらず、そもそも部屋の構造上、ベッドの位置からドアを見ることなど不可能なのだ。
 やはり夢だったか。窓の外はまだ暗い。一安心してまた眠る。しかしそれで終わりではなかった。
 しばらくするとまた同じ夢を見たのだ。ただ微妙にアレンジが加わっていて、今度は白い手は女だった。なぜかオレは女の手であることを知っていた。前回同様、飛び起きた後、夢であることを確認し、やはり同じように寝る。

 3度目は子どもの手だった。小さな手がドアのすきまを動き回るのを見つつ、オレはいい加減にしてくれ、と思ったものだ(夢の中で)。

 そして気づくと朝になっていた。窓からは初夏の陽光が差し込んでおり、そこにオカルト的な気配というものはない。一晩に3度も同じ経験をしたとといっても、もともとそういう夢だったのかも知れないし。所詮、人の記憶なんてあやふやなものなのだ。いちいち真剣になっちゃいけない。
 ともあれ、ちょっとした小ネタにと、朝食のときに友人たちに話してみる。と、隣の部屋に泊まったヤツが「やっぱり」としたり顔になった。
「だってその部屋、変な位置に柱があるし、いかにも“たまって”そうなんだもん。窓の外だって、変なひさしがついてるしさ。そこにナニかがいたら怖いだろーなと思ってたんだ」

なぬー! それを先に言え!

 別に霊感があるわけでもないし、オカルト的なものを信じているわけでもないので、どうでもいいんだけれど、でも、なんか嫌〜な気分ではあるわけだ。だってマジに出たらやっぱ怖いじゃんか(笑)。
 思い返すと、前日は四国八十八ケ所のひとつである石手寺で傍若無人に写真撮ってたりしてたからなぁ。誰かついてきちゃったのかしら。というよりそういうことにしたほうが噺的には面白いわな、こういう場合。
 ちなみに次の夜も同じ部屋だったわけだが、今度は特になにも起こらなかった。その日はこんぴら神社にお参りにいったので、おそらくそのときに帰っていったのだろう。なぜそんなことがわかるのか? そのほうがオチとしてきれいにまとまるからだ。

99年05月30日

G式過剰