先日、赤坂の韓国料理店に行く機会があったのである。
知っている人もいるかもしれない。表通りからちょっとはずれた隠れ家風のその店では、焼肉はもちろんのこと、日本ではちょっと味わえない韓国家庭料理を楽しむことができる。オレ的には放し飼いで育った鳥肉で作るサムゲタンが気に入った。
もちろん味だけではなく、店の気楽な雰囲気も最高。だからあまり人には紹介したくない。そういう感じの店だ。
さて、その店で舌鼓を打っているときのことである。耳にとある言葉が飛び込んできた。店内のそこここで、客がとてもよく聞く名前を口にしているらしい。ん? と耳を澄ませてみる。
「…キムタク…」
「…そこキムタクが…」
「キムタクを…」
もしやこの店、かの男がよくくる店なのか? たしかに小技の効いたデートには最適な店なのである。なるほど。と一人納得していると、奥の方から若い女性達の嬌声。
「キムタク!」
オレは思い違いをしていたらしいことに思い至った。彼がよく来るのではない。今、この場に彼がいるのではないか? もしや、もしや?!
オレは意を決して店員を呼び止め、きいてみる。
「キムタクが?」
すると店員、小さく頷くといったん奥に下がる。程なく戻ってきた店員が、“はいお待ちどうさま”と持ってきたのは、皿に山盛りたくさんのキムチだった。
つまりここでの教訓は『なんでも略すればいーっつうもんじゃないだろ』。以上だ。