「三十にしてたつ」というのは孔子の言葉だったか。
しかしオレは「30才になったら気をつけろ」といいたい。
なぜだろうか、人は30才になると変わってしまう。もちろん性格や嗜好などの基本的な部分は大きく変わることはない。変わるのは人とのかかわりあい方。というとわかりにくいかもしれない。つまり具体的には“自己主張が強くなる”“説教くさくなる”“グチっぽくなる”。そういうことだ。
具現化するパターンに個人差はあるが、総じて、頑固でワガママになる。一言でくくれば『オヤジ化』ということなのかもしれないが、いわゆるオヤジという言葉の持つがさつさ無神経さといったニュアンスとは少々違うようにも思う。
これは男性に限った話ではない。男女問わずこの変質の罠から逃げることはできない。
例えば。
仕事もでき後輩の面倒見もいいA氏。しかし30才も近くなったある日から、なにかと説教くさくなり細かなことにチェックをいれるようになった。いつもなにかにつけチェックを入れ、自分の意に添わないとなると呼び出して説教である。おかげでその年の新人たちからは煙たがれ、その結果、職場はうまく機能しなくなってしまった。
もう一例。
元気印でグループのリーダー的存在のB女史。なにかと遊びのプランをたてたりして、影に日向に活躍していた。ところがいつしか自説を曲げない頑固で詭弁な強情者になり自分の思い通りにいかないとヒステリックに相手を糾弾し始める始末。いつしか仲間からつまはじきにされるが、それが自分のせいであることには決して思い至らない。
これらは極端な例のようだが、そんなことはない。ざらに出くわす経験なのである。
傾向としては、積極的で快活なリーダー型の性格が、特に重傷になりやすいようだ。それまで人気者だっただけによけい目立つということなのかもしれないが。
これに気づいたのはまだ20代の頃だ。なんか変だぞと思い、同僚などにそういう経験ない? と聞いてみたりしたところ、
「その年代って、就職してちょうど新人から中堅どころ職員となる頃で、自分の主義主張ができてくるからじゃないか」という推論を得た。
なるほど、そうかもしれない。しかしそれにしても、あそこまで自分が正しい、お前らが間違ってる。と断言できるのはなぜだろう。
寡聞にしてオレはこのような症状をなんと呼ぶのか知らない。仮に『30クライシス』と呼ぶことにしよう(もし正しい専門用語を知っている方がいたらご一報ください)。
それまで快活で明るくて好かれる存在だった者が、なんとなくまわりから煙たがられ出し、疎遠になってしまった場合、それは30クライシスのせいだ。ただでさえこじれた人間関係の回復は難しいというのに、本人に自覚がないというのだからもはや改善は奇跡に近い(言い過ぎかしら?)。
ともあれ、人が歳とともに変わっていくのは仕方のないこととはいえ、人に迷惑をかけたり不快にさせたりするような変わり方だけはしたくないものだ。
で、そんなことを思いつつ、あれから数年。オレ自身、30代になったわけだが、今ははたして30クライシスに陥っていないだろうかと、気になってしかたがない。そりゃ歳とともに成長しないのはそれはそれで問題があるが、悪いほうに変わっていくのはね。自分では気をつけているつもりだが、その現れ方もさまざまだし、自分の欠点は自分じゃ気づかないもんでしょ。
もしあなたが30歳前後で、まわりに対していつもいらだちを感じ、自分の意見を言わずにいわれなくなってきているとしたら、それは30クライシスかもしれない。気をつけましょう。まわりから嫌われる前に。