秋である。食欲の秋なのである。なれば旬のものを食べたくなるのは人情ってもんでしょ。
今年、横浜中華街では『上海蟹フェア』なるものを開催中なのですね。1杯2000円。なんて超お得。なれば行かずば、食わずばなるまいて。というわけで行きましたとも。カニ食いに。
店は、技の効いた逸品が堪能できる香港通りのB丹園。てなわけでカニ以外にも、海鮮茶碗蒸しやスペアリブなど絶妙の味に出会えたが、それはまたいずれの話ということで、今回はとにかくカニについて熱く語っちゃうわけだ。
いや〜、美味いわ、上海ガニ。あんな小ぶりのくせに毛ガニの倍以上のお値段もむべなるかなって感じ? ミソの濃厚な味わいと殻ごとバリバリいってなお口中に広がる力強い蟹肉の風味ってやつね。もう、た・ま・り・ま・せ・ん。
てなわけでただでさえテンション高くなってるちゅーに、紹興酒をしたたかに胃の腑におさめたもんだからさあ大変。大声で盛り上がるわ、2件目の店を探しに途中で店外に出ていったり、やりたい放題でかなり迷惑をかけてしまったかもしれない。で、酔っぱらいなりに迷惑かけた意識があったんでしょう、店を出るとき妙に「美味かった」を連発フォローがまたカッコ悪い。もうあの店いけないです。いやはや酒は恐ろしい。
さて、ここからが本題の『カニの想い出話』。
その1)
上海ガニは今回初体験だったんだけど、実は昔に出会いのチャンスはあったね。もう5年以上も前になるのかな。香港に一週間行ってたんだけど、その時期がちょうど上海ガニの旬にぶつかった。
上海料理店へ行ったのは小龍包のバカ食いのためだったが、他のテーブルは当然カニなわけ。となるとこっちも意識しちゃうってもんで、ためしに値段を聞いてみる。ナマクラ広東語とカニの形態模写を駆使して知り得た値段は2000円程。当時、日本では最低でも4000円は覚悟しなければいけなかったカニが、である。確かに安い。
んが、香港で4、5日も暮らしているとねぇ、金銭感覚がおかしくなっちゃうでしょ? なにしろ、ちょっと気のきいたディナーが2000円で食べられるお国。てなわけで、金惜しんでみすみす食いそびれてしまった。我ながら情けない。
その2)
日本でのカニの思い出といえば、やっぱ学生時代だね。なんたってオレの専門はカニの形態学だ。カニにはとことん縁があるってこと。でも実験に使うカニはイソガニという小さくて食用にはとうてい向かないヤツなんだな、これが。一度捕獲に行ったとき漁師さんに訊いてみたが「んなもん食わんわ」と一言で片づけられてしまったこともある。
んが、イソガニ捕獲に行ったからといってそれだけしか探さないわけじゃあないのよ。(ごくたまにだけども)ワタリガニなんかが、ゲットできちゃったりもするんだなこれが。もちろん、そんなときは嬉々として研究室に戻り、常備されている味噌調味料等取り出しカニ汁パーティである。やっぱ新鮮なカニはうまい。生物学バンザイ。
その3)
2年前、釧路に行ったときのこと。市場の主役はとーぜんカニ。
で、だ。よくTVの旅行番組などで、試食といってはでかいカニ爪を差し出すシーンがあるでしょ。あれってやっぱ芸能人だから、TVだから、だよなぁ… と思っていたら、これが大違い。本当に試食させてくれるのだ。いやぁ、いいわ、釧路。ビバ試食!
売られているのは主にズワイガニ。確かにうまい。んが、それ以上に美味いカニあり! その名は花咲ガニ。関東じゃあ、なかなか出会えないでしょ。なんでもアシが早くて、東京の市場に出すのが難しいせいだそうな。本当かな? 美味いもんは北海道独り占めなんじゃねーの。ま、そう思える程に美味いっちゅーことね。とにかく味が濃いのなんのって、ズワイの数倍はあるね。しかも身もしまっとる。水っぽさがない。もちろんお土産にしました。
ちなみに、その店ではもうひとつ隠し玉があって、脱皮したばかりのズワイガニがそれ。なんでも売りもんにならないから、試食用に使ってるちゅーことだが、勿論それはみてくれだけの話で味には関係なし。むしろ甲羅ごと食えるのが、面白い。う〜ん、いい経験させてもらったね、あんときは。
これから冬を迎えてますますカニが旬のものに突入するわけだが、うーん、書いててなんか食べたくなっちまった。てなわけで、オチもなんにもなくただ自分の食い意地が暴露されただけで終わるのでした。