…8
さて、南国といえば虫である。異論はあろうけれども、ここはそういうことにしてほしい。
竹富島のいたるところで、華やかな原色の花が咲き乱れ、アゲハやマダラといった大ぶりの蝶が飛び回っている。黒、白、黄色の乱舞。ああ、楽園の持つイメージってこんな感じだよなぁ。
しかし、南国ムシ天国は決して昼間だけではない。夜もまた虫たちの営みはあったのだ。
夜である。宴会を始めようとタープわきのライトをつけると、どこからともなく黒い粒がわらわらと集まってきた。カメムシだ。体長5ミリにも満たない小ぶりな黒いカメムシが、足の踏み場もない程、いや本当に足の踏み場がない。とにかくみるみるうちに壁から地面から真っ黒になっていった。
タープの下にはいると、パラパラと音がする。雨かと思ったらカメムシ。頭や首筋をつーっと汗が流れた感じがする、と実はそれがカメムシ。別に悪さをするわけではないが、力を入れてはらったりすると、ご存じの臭いにおいを押しつけてくる。
オバァは殺虫スプレーをかけては箒で掃き集めるという力技で除去を試みるが、焼け石に水ではあった。なにしろ次から次へと集まってきてしまうのだから、もうどうしようもない。
そんなこんなで、時間は9時をまわる。すると、どうやら活動時間を過ぎたらしい。いつの間にかいなくなっていった。
壁にむらがるのはカメムシばかりではない。南国の可愛いあいつ、ヤールーことヤモリである。白い身体に不釣り合いな黒い丸い目をクリクリさせて、実にかわいらしい。明かりに群がる蛾をねらって活発に捕食行動していた。が、さしものヤモリも前述のカメムシにはまったく手を出さないのだった。以外と美食家なのか。
食ってくれればこっちもカメムシに悩まずにすむのにと願うのは、ちと“むし”のいい話だろうか。もっとも、ヤモリのおかげで、蚊に刺されることもなく、あの有名な巨大ゴキブリをほとんどみることもなかったのだ。感謝しなければ。