…12
昼前にいったん宿に戻る。
と、オジィが「これから珊瑚礁んところまで行きましょうねぇ」
さっそく、オジィの運転する軽トラに他の泊まり客とお馴染みの箱乗りで、港へ向かう。港にはオジィの船が係留されているのだ。わたわたと乗り換え、いざ透き通る碧色の海へ。向かうは珊瑚礁のダイブスポットだ。なんか猛烈に興奮してきた。
10分ほどで船は目的地に到着し、碇を降ろす。正確にはオジィの命令でぽんすけが降ろした。これがまたもたもたしていると「早くいれなさい!」とオジィが怒る。けっこう人使いが荒いのだ。
さて、そのスポット、ちょうど竹富と西表の間にある。だから前を向いても後ろを向いても右も左もやはり海なのだ。正しくは竹富島をとりまく環礁の一部なのだと思うが、浜からは1キロ程度離れていて気分的には外洋にいる感じだ。実際、来る途中、見えていた海底はすでに見えない。ということはかなり深い。そして船のまわりだけ珊瑚礁が海面近くまで盛り上がっている。その直径5、6メートルくらいのピンポイントだけ足がとどき、胸くらいまで顔を出して立つことができる。そこからちょっと外れるとガクンと深くなる。
はしまで進んで軽く沈んでみると、いや確かに深い。そして気づいたのは、そんなかなり深いところまで見ることができる、それほど透明度の高い海なのだということだ。時間帯のせいか地形的なものかわからないが、波もまったくといっていいほどない。その分、若干ゴミなどが漂っていて“きれいに澄みきった”とまではいえないものの、まさにシュノーケリングに絶好の条件だった。
さっそく、えいやとばかりに潜ってみる。今年の夏は幸か不幸か台風が来ることなく、そのため珊瑚が死んでいっているらしい。テーブル珊瑚も枝珊瑚も白い殻ばかり。少々いたいたしい。もっとも全滅したわけではなく、ところどころから青紫の枝が伸び始めていた。
珊瑚礁でなによりも見るべきはやはり魚である。すごい。体長数十センチの名前もわからない魚が目の前を泳ぎ去っていく。珊瑚の隙間にはカラフルな熱帯魚が群がっている。すごいすごいと、ひとりではしゃぐオレだった。別に他の者が冷静だったわけではなくて、海中では話すことができないからひとりで盛り上がるしかなかっただけだが。このために使い切り水中カメラを持ってきたのだが、しかしやっぱりニコノスを買ってくるべきだったかしらと、本気で後悔する。
30分くらい泳いでいただろうか。ちょっと疲れて船に戻ると、他のみんなもなんとなく戻ってきていた。
それを契機に、オジィはタイミングよく「別のポイントに移動しようねぇ」といい、そこからさらにもう少し沖の方へ船を動かした。こっちは海流が出始めていて、ちょっと油断すると船から流されてしまうし、珊瑚礁の位置が深いところにあるため、足が届くか届かないかというポイントだ。しかしその分、透明度はさらに抜群で、どこまでも見通すことができそうな気がするほどだ。
場所がちょっと変わるだけで魚の種類も違ってくる。こちらは大きい魚が減り、その分、数で勝負といった様相である。青い熱帯魚の群が、まるで煙幕のように身体の周りを泳いでいく。「すげぇや」そんな言葉しか思いつかない。あっけにとられるといった言葉が一番適当だ。
シュノーケリングは楽しい。たとえ泳げなくとも。
とにかく生まれてはじめて経験することばかり。まだまだ知らない世界は多いと、本当にそう思う。