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伊豆大島で海彦山彦  …4

 山彦編1 山は呼んでいるかも   

 いよいよ三原山である。  朝食をとり、三原山へ向かうバスに乗り、火口手前まではバスで楽させてもらう。山登りといっても今回は本気登りではなく、観光登りなので装備も適当で、非常食なんかはなし。荷物といえるものはカメラバッグ程度である。しかしこれがあとで命取りになったのかはこのときはまだ知る由もなかった。
 火口へ到着すると様々な観光客と一緒にバスを降りる。山の上は意外というか当然というか、涼しいというよりも冷えるくらいでやはり秋真っ盛りの10月なのだった。我々以外の三原山を訪れている客は中高年の皆様、欧州や中東からといった、なんで大島なんかに? という印象を持たずにはいられない海外からのお客様。どうも客層が不思議ではあったが、まあいい。

 バス停から火口までは歩いて30分程。感じとしてはちょっとした外輪山から内輪山へ登るようなものだと思ってもらえればいい。ススキが秋風になびいていた。陽光はほどよく辺りを照らしていた。山登りには絶好の日和だ。

 欧州からの一行は馬をレンタルしたようだ。それもまた楽しそうではあったが、我々は自分の足で上ろうと誓った。なんてかっこいいこと(?)を言ってはみたが実はけっこうな金額だったのでやめただけ。なんか石垣島に続いてけちけちモードも抜けていないのだろうか。
 急ぐ旅ではない。のんびり進む。ところどころに溶岩がむき出しになっている。
 火口までの遊歩道が途中で流れ出した溶岩で埋まり迂回を余儀なくされている。すでに冷え固まっているが当時の(といってもつい最近のことだ)生々しさを肌で感じる。
 内輪山にとりつくと気持ちのよい散歩から、次第にハードな山歩きの雰囲気になってくる。といっても道はアスファルトで整備されていて歩きにくいということではない。単にこちらの体力が鈍りまくっているせいなのだ。ヒィヒィハァハァと息があがる。振り替えれば眼下に広がるススキ野原。それをくねるように黒い帯が走っている。溶岩だ。なるほど。こういうルートで流れていったのかということが直感的にわかる。

 けっこうハードのような気もしたが高度差は実はそれほどでもない。単に急登なのだ。だから内輪の火口に到着するのも思いの外早い。
 三人は火口をのぞき込み「ほぉ」とため息をついた。やはりすごい。
 大きな穴。
 ただそれだけなのだが、それが大きいというそれだけで圧倒されるということがある。まさに今がそうだ。
 火口わきのハゲ山の斜面全体から白い煙が尽きることなく立ち上っている。近寄って手をあててみるとかすかにほんのりと温度を感じることができた。山頂だから吹き付ける風は実に強く、肌寒いのだが、地面が気温を無視している。この山は生きている。


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