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火口を一周しようということになった。実は長丼は山頂で揚げようとスポーツカイトを持参していた。あとはどこで揚げようかとまわりを見渡す。が、そんなとき町の青年団(あるいは消防団の青年)が我々を突然呼び止めた。
「それタコでしょ、ここではあげないで」いきなりダメだしをくらう。
確かに火口のまわりでは風が強くよく揚がるだろうけれど、体を風にもっていかれそうな感じはあった。しかし理由はおそらくそれだけではななかったのだろうと3人は思うのだった。実は昨日のことだが、やはり三原山見物に来た一団があったそうだ。そしてその中のひとりが行方不明になってしまったのだった。遭難者は翌日、つまり文中では今もまだ発見されていなかった。だから三原山のそこかしこには町の捜索隊が見かけられ、空にはへりが旋回している、そういう状況だったのだ。だから、へたにタコなんか上げられたら捜索の邪魔だということなのだろう。
「きっとヘリに引っかかって墜落するといけないからだな」
「そんな低いとこなんか飛ぶかいっ」
「いんやけっこう低いぞ。操縦士の顔の皺までばっちり見えるし」
「いい加減なこというなよ。そうじゃなくて発見したときタコで信号を送ることになっているのさ」
タコが揚げられなかった腹いせにかどうか、不謹慎なボケをかましまくるのであった。
実際、三原山を歩いてみた印象なのだが、かなり低いながらもかなり危険な山なのではないだろうか。というのも山の中心部こそ視界もいいのだが、いったん降りてくると溶岩の壁が高く聳え隔たり、もしそこにまぎれこんだりしたらほぼ絶対に見つからないだろう、裾野はそんな迷路のような荒野なのである。
火口を一周し、いよいよ今回のメインイベント、裏砂漠へ突入である。のんびりと火口から裏砂漠へ抜ける遊歩道を降りていくと目の前にただ広い空間が広がっている。もちろん火口一周するときに上から眺めてはいたが、目線の違いというものは恐ろしいもので、上から観たときは遠く林や海まで目にはいってしまうためにあまり広さは感じず、砂漠というイメージがないのだが、目線が変わり地平線ができると、確かに荒涼としたどこまでも続く砂漠感がひしひしと感じられる。
なぜか植物の生育があまり進んでいない。ところどころにぽつんと小さな低木が生えているだけで、あとは一面の砂の大地。
噴火の溶岩でできた砂漠である。砂粒は細かく砕け散った溶岩でできている。尖った大粒のちょっと砂は転んだらとても痛そうだ。溶岩なので色は黒灰色。それが異世界感をより強めている。
そうなのだ。砂漠といってもそれは地球上の、所謂駱駝やガラガラ蛇のいるような砂漠というよりも、月や火星などの地球外の砂漠を思わせる。そんなところだった。
ほどなくして歩道はなくなった。いや明確な道筋はなくなったということなのだが、いずれにせよ異世界感を全身で感じ、テンションがかなりハイになっていたのだろう。道なんかいらねーやい、とばかりに砂漠の丘を目指した。まさに絶景である。