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みちのくの駆け足旅  …5

 森の木陰でラッセーラ!   

 ガイドブックを見ると青森市街は思った以上に見どころが多いが、駆け足旅の我々に残された時間は少ない。しかし青森といえば『ねぶた』。ならばこれを外すわけにはいかない。

 市街からこれまた車で20分。そこに「ねぶたの里」があった。いままで使用されたねぶたの展示や、体験コーナーなどがあるという。一路、そこを目指して車は走る。しかし進めば進むほどに車はどんどん山の中へと入り込んでいく。どう考えても、展示館のような施設があるとは思えない。迷ったか。
 と、そのとき。道路脇に案内の看板が見つかった。正しかったのだ。しかし山の中にいることは変わらない。どうなってるのだと思っているうちに駐車場に到着する。建物などない。あるのはどうみても山の散策路の入口風な公園の門のみである。
 我々は勘違いをしていたのだ。ねぶたの展示というから、てっきり数階建ての博物館、美術館のようなものを想像していた。まったく間違っていた。そこは森林公園であり、その中に、展示館や体験館、アスレチックコースやバーベキュー広場などがあるのだ。一同は顔を見合わせる。
「また時間が押すなぁ」
「でもせっかくここまできたんだしな」
「とりあえず晴れてよかったちゅーこと?」

 小川の脇を沿うように小道が続く。昨日までの雨のおかげで水量も多く、せせらぎの音が心地よい。次第にリラックスした気分になりながら5分ほど歩くと、華やかでどこか素朴な縁日風の店先が見えてきた。まわりが山に囲まれているせいで、時代感がなくなってくる。ちょっとした江戸村気分がいい雰囲気だ。

がわ
こんな感じで造られていく(でもコレ何?)
張付完成
とりあえずそれっぽくなり
ねぶた1
見よ! この迫力
ねぶた2
力強いこのポーズ
ねぶた3
オレが引いたねぶたがこれ

 とりあえずメインディッシュの「ねぶた館」へ向かう。薄暗い倉庫のような建物の中にところ狭しと並べられる“ねぶた”。薄暗い中に、内側から光るねぶたたちが浮かびあがる。もちろん彼らはかつて青森の夜を練り歩いた勇士たちだ。だからものによっては所々破けていたりもする。痛々しくもあるが、しかしそれを修復することは難しいようだ。ねぶたは数万ポリゴンの骨組みに強いテンションをかけて張られた紙に色を塗り作られている。故に骨組みが壊れると、それを直すのはかなり難しいようだ。

 はじめてみるねぶたの大きさ、力強さに圧倒される。すごい。かっこいい。
 ねぶたのポーズはどれも腰をズンと落として足をふんばる、あまり背の高くならないようなポーズである。いろいろな理由はあるのだろうけれど、その制限があるために、逆に、より異形の持つ迫力が出ているように感じた(どれも似たり寄ったりになるという意見もあったことはあったが)。
 こうなると弘前の“ねぷた”や黒石の“たちねぶた”とも比べてみたい気に、どうしてもなる。実は別館に数体のねぷたも展示されていたのだが、やはりねぶたよりは扱いが小さく、なによりも、やはり実際に夜空にそそり立つ姿をみてこそでは、と思う。

 もうひとつの発見は、ねぶた師という職業の存在だった。確かにあれだけのものを素人が造るということはかなり難しいだろうとは思っていたが、職業としてそれが成立していること、そして誰々作というくらいの名人の存在など、いわれればなるほどなのだが、目から鱗が落ちた。

 さてここでのメインイベントはねぶた体験。つまり実際にねぶたを引くことができるのだ。お囃子にのせて(鞭のようにしなるばちで軽快かつリズミカルに響く大太鼓のビートは実にノル)、老若男女とり混ぜ十数人の物好きな客がねぶたにとりついた。もちろんオレもそのひとり。お囃子に合わせてねぶたを引く。なんのことはないただそれだけのことなのに本当に嬉しい楽しい。まだまだオレも子どもだ。
 引いてみての率直な感想としては『意外とかるい』だった。けっこうするすると引くことができるのだ。ちょっと拍子抜け。と思ったら、まさにオレの心を読んだかのように、MCから解説が入った。
 今引いているねぶたは、本番よりだいぶ軽量化されているとのこと。実際には荷台の中にお囃子や機材や諸々が詰め込まれ、ほぼ倍くらいの重さになり、しかも引き手も、今取りついているのは30人くらいだが、実際には10数人程度。しかも実際には2時間引きっぱなしなのだ。つまり2×2×12=48倍。もうこうなると全然想像もできない。というわけで、ねぶた体験は結局リアルなシミュレーション体験とはいえないのであった。でもすこぶる楽しかったのは本当だ。

 その後の踊り体験は、オレは観客に回りその様子を見守ることにした。ねぶたを前に円陣を組み、お囃子に合わせて踊る。ねぶたの踊りは日本で一番簡単な踊りだとMCの兄さんはいった。一番かどうかは別として、簡単というのはそのとおりで、ようするにスキップすればいいだけなのである。
「ラッセーラ!」のかけ声に合わせてスキップ。簡単。誰にでもすぐにできる。もっとも世の中にはスキップ下手な人もいるので100%ではないだろうけれど。ただし、覚えるのが簡単なだけでこれを数時間も踊るとなればやはり相当なものだ。

 つまりねぶたは体力勝負の祭りであるということだ。


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