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夕暮れ迫る?凍結道路 アスファルト面が丸見え 麦草ヒュッテに夕陽が沈む 鉛色に光る白駒池 水の確保も一仕事 穴に異様に興味を示すぽんすけ隊員 |
街道にでると、先の一行がいうとおり雪はなかった。全然というとオーバーだがそれはかなり前に降ったものが解けずに残って氷状態のそれだった。こうなるとアイゼンの威力が100%発揮される。へっへー、と勝ち誇ったような気分で先をゆくが、しかしそれも長くは続かない。どこをみても雪はないところまできてしまえば、なんのことはない単なる軽登山状態である。これ以上はアイゼンの歯が痛むので取り外す。
麦草ヒュッテに到着した。さすがに小屋の回りは(ほどほどに)白い雪原ではある。
部屋で着替えくつろいでいると日没が迫ってきた。と同時に横から太陽の光が雪原を染めはじめた。急いで外にでてみると雲が切れはじめていた。よし、このまま明日晴れてくれ。そう祈りながらその日は9時に消灯。吐く息が白く凍る寒い部屋の中、あっという間に眠りについた。
翌日である。
窓から見える空は快晴。になりそうな日の出前の夜空が見えた。
雪が積もっていたならもう一泊してXCスキー三昧というのを考えていたのだが、現状ではそれはどう考えても無理。ということで今回は白駒池までひと歩きした後、下山することに決定する。せっかくなのでオレはスノシューを装着。ぽんすけ隊員は逆に軽アイゼンで行くことになった。朝光の中、林間の木漏れ日を縫うようにして散策路は池に続いていた。普段、陽光にさらされることがないせいだろう。雪はそこそこ深く積もっており、スノシューはここぞとばかりに活躍する。もっともふかふか雪ではないので、履かないともぐるというほどのもんでもなく、いらないよといえば確かに不要ではあったのだが、そこはそれ、気の持ちようだ。
あっという間に池に到着。青苔荘の掃除ををしていた兄さんに、
「池の上、渡れますかね」
「大丈夫。凍ってますよ」
そうか? 遠目に観ると逆光というせいもあるのかも知れないが、湖面は鈍い光を放ち、まるで凍っているようには見えなかったのだ。恐る恐る足をのせる。びくともしない。なんだやっぱり凍ってるじゃんか。ビビって損したよと、ガシガシ進む。もっとも歩くたびにスノシューの歯が氷面でカリカリと音を立てるのに若干の不安感はないわけではなかったのだが。途中に青苔荘の水くみ場があり穴がうがたれていたので、覗きこんでみれば30センチくらいの厚みがあった。池全体がそうだとは思わないが、なんのことはない、わりときちんと凍っていたのだ。
「しまった、ザイル忘れた」
突然、ぽんすけ隊員が叫んだ。ぽんすけは今回、愛用のデジタルビデオに新アイテムのスポーツパックを装着して持ってきていた。だからザイルを結びつけてビデオをこの穴に降ろせばもれなく氷の下の世界というスクープ映像が撮れたはずだ。というわけで地団駄を踏んだのだ。
オレは「まあ、次があるよ」と慰めたのだが、よく考えればスポーツパックはおそらく浮いてしまって、ザイルがあってもダメだっただろうということに気づいたのは、池からヒュッテへ戻ってしばらくたってからだった。