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まだ陽はある 緑色がきれいな深泥沼 調子が出てきたよ ドンドン行くよ 静かな林 思わず涎がたれます ボカァ、パン食だ 弁天沼に雪は降り積もる |
どことなく変なルートの謎は15分ほど進んで解決した。ようするに我々は夏のハイキングルートを進んでいたのだ。XC用にはもっと幅広平坦なルートがあったのだった。不必要なアップダウンで無駄に疲れたわけだが、そのかわり毘沙門沼を間近で堪能できたのだから、結果的には問題はなかったともいえる。ともあれ、どうりで人がいなかったはずだ。本来のコースにでるとXCやスノシューを装備した一団とそれなりにすれ違ったりもし、冬山はやはり人の賑わいであった。
雪に包みこまれた林の雰囲気を楽しみながら、のんびりとコースを進む。
が、しばらく進むうちに、もうひとつの問題が発生し始めた。
それは天候。山の天気は変わりやすいの言葉どおり、西の山、磐梯山から雲が流れ込み始めていた。
コースの入口あたりではピーカンだった空も、3つ目の沼をすぎる頃には、薄暗い灰色の雲が覆い始めていた。雲が見る見るうちに厚くなるのがわかる。これは曇りだけじゃ済まないかも。そんな予感は早くも的中した。雪が降り始めてしまった。風も吹きつける程ではないが出てきた。雪山遊びのコンディションとしては、あまり、いやかなり面白くない状況だ。
もっともすでに山ハイ状態で相当にテンションが上がっていた我々、雪が降ったら降ったでその状況を楽しめた。それはおそらくこのコースが森林の中を進むため、ダイレクトに吹雪かれなかったせいだろうし、はたまた『5つの沼を巡る』というクリア魂を刺激するコース設定のためでもあろう。しかし、オレとしてはなにより雰囲気にまいっていたせいといいたい。
オレは沼の上に深々と降り注ぐ白雪に見とれていた。雪のおかげで雑音が吸収され、森はただひっそりと白く、無音の世界へと変化していたのだ。あるのはスキーが雪を擦る音、時折枝から落ちる雪の音だけだ。
寒いせいもあるが、なんとなく言葉を発する気持ちにはならず、いつになく無口な3人はコースを進むのだった。
そろそろ腹時計がランチタイムを知らせてきた。
コースの途中、適度に広くなっていてかつ木々が適度に雪や風を遮ってくれそうないい場所を見つけだし、そそくさと朝にコンビニで各々買い込んでおいた昼食の準備に入る。事前に打ち合わせをする余裕がなかったので、とりあえず各自各個にやるパターンとなり、山用パスタを作る者あり、チーズ&パン&ワインとしゃれ込む者ありと、それぞれの思惑に従った(?)メニューとなった。オレはコンビニの一人用すき焼きで勝負する。これが実にヒットで、寒い雪山には鍋が絶妙にあうのだ。夏場じゃあっという間に傷む、汁の流出が危険と、様々なリスクはあれど、コンビニ鍋あなどるべからず。冬ならではのチョイスは癖になりそうだ。
というわけで各自しあわせな気分に浸りつつ、持ってきた酒に舌鼓を打つ。
そんなとき、反対側から十人程のパーティがやってくる。なんかピンとくるところがあり目を凝らすと、一行の先頭を行くのはどこかで見たことのある顔。おやおや、なんのことはない。今回の泊まり先のペンションのオーナーだった。つまり彼らはペンション主催のスノシューツアーなのである。
ペンションのオーナーのほうでも、我々を目ざとく見つけ、
「そんなひと沼ごとに宴会してるといつまでたっても到着しませんよ」という。
「そんなぁ、そんなに飲んでませんってば」
とりあえず弁解してはみるものの、その場に展開するワインや日本酒をみれば全然説得力はない。でも、ひと沼ごとってのは酷すぎる。
そもそも昨晩に、他の客が部屋に戻って大人しくしているのに3人だけが談話室に粘って酒を飲んでるってのがヘンな刷り込みになってしまったのかしら、と3人は顔を見合わせ溜息をついたのだった。
ツアーのほうはこれからさらにいくつかの沼を回った後、コース途中で森林の中に入り、オーナーの開拓したルートを通って宿に戻るという。天候は下り坂のこと、お互いに「気をつけて頑張りましょう」とエールを交換しあった。
腹も膨らみパワーも回復した。雪も強くなってきたので、テキパキと片づけを終え、再びトレッキング。淡々と先を進み、そしてとうとう五色沼コースを歩ききったのだった。