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さて、スーベニアなどもチェックし終わり、時間は11時。早めの昼食にしよ、と、博物館近くの参鶏湯専門店『土俗村』へ行く。まだ昼には早いので客も数人しかおらず、ゆったり気分で席につく。注文したのは烏骨鶏の参鶏湯。すでに仕込みもできているのだろう、注文して数分で出てくるのがありがたい。
実に美味そうである。そして美味いのである。丸々一羽の烏骨鶏の腹中に詰められた餅米が旨味成分を力一杯吸い込んでいて激ウマの雑炊状態になっている。銀杏やナツメ、栗なども入っていてこれと鶏の肉を口に含むと、もうなんともいえない至福。来てよかった。30分くらいかけて、汁一滴残さず完食。体中が暖まりホカホカしている。オンドル床なので相当に汗をかいた。
ところで食べるにあたり、小皿が出てきたので骨のとり皿だろうと思って、口から出した骨を捨て、鍋から直食いしていたのだが、食べ終わる頃には店もだいぶ混んできており、他の地元客の食事作法を観察できるようになった。そこでわかった本来の食べ方は、まず肉を大まかに箸で分解しつつ皿に取り出しそれをきれいに食べきる。そうやって足や羽の肉主体の部分を食べきった後に、胸肉部分を腹に詰めた餅米と一緒に鍋内でほぐし、これをスプーンで食べる。ということらしい。うーん、自分の食べ方とは大違い。まあ、どういう食べ方をしても味は変わらないとは思うし、実際美味かったんだけど。次に食べるときは韓国スタイルで食べよ、と心に留め置くのだった。
仏像と鶏でパワーが回復したのか、勢いづいて『戦争記念館』に行ってみることにする。
ところが店を出たあたりから右足の調子がおかしくなっていることに気づいた。どうもどこかで捻ったらしい。歩くにつれ痛みが増してきて、連続して長い時間を歩くのがつらい。しかも小雨降り止まずで気分も冴えず。そんな中での『戦争記念館』。元々ハイテンションで観るような場所ではないので、よけい気分は重くなる。
施設自体は異様に広い空間で、大砲やら戦車やら飛行機やらが所狭しと展示されている。あまり興味もないので軽く見流し館内へ移動すると、今度は韓国の戦争の歴史と今についての膨大な展示である。展示だけを見ていると「ここの人たちってすごい争い好きなのかしら」とつい思ってしまわずにはいられないが、自分の国を思い返せば、源平合戦の博物館とか関ヶ原の戦いの記念館とか、戦争の歴史の展示もけっこうあるわけで、要するに、いずれの国も生臭い歴史を持っているという話なのだ。問題は、そういう過去をどう認識し、どう克服していくかってことなんだろう。
展示で「なんだかなぁ」と思ったのはロビーにあった“今月護国人物”なるパネル。多くの英雄達を絵にしてパネル化しているのだが、そういう国威高揚的演出ってオレ的にはげんなり。
そして、その奥には英雄達のブロンズレリーフ群。インスタレーションは物々しくも荘厳であり、実によく計算されているなとは思ったが、ここってつまりでっかい共同墓地ってことなのか?
広い敷地内をちょっと歩いては椅子でひと休みという見学のおかげもあって、テンションは下がる一方。早々に切り上げ、梨泰院へ向かう。
梨泰院での目的は革製品。けっこう期待を込めて革コートと革カバンを探すも、どの店もイマイチ活気がなく、昔の積極的な町という印象はなくなっていた。ネクタイもなくなっていたし、せっかく買うぜモードになっていたのにガッカリだ。街の活気の点でいえば、少々時間が早すぎた(3時くらい)ということもあるのだろうが、品がないのでは話にならない。結局ここも早々に引き上げることにする。当初の計画では、このあと、東大門に行き、革製品の再チェックを考えていたのだが、足の痛さにいい加減耐えられなくなり、宿に戻ることにする。仁寺洞にたどりつくと、直接宿には戻らずちょいと寄り道小休止。民芸喫茶に飛び込み、梅茶を飲む。甘酸っぱい香りが小雨で冷え切った体にしんわりと染み渡る。ゆったりとした時間を過ごす。でも本当はスジョンガを飲みたかったのになかったので、ちょっとガッカリしていたりもする。