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昼飯時である。駅前に戻り、さらにバス通りを奥に進んだすぐのところで見つけた一杯飯屋に入った。ビーフンとウナギのスープを注文する、というよりもそのふたつしかなかったのであるが。ビーフンは甘めの味付けで正直今ひとつオレの口には合わなかったが、ウナギはチャーシューだれにつけて焼いたものをスープ仕立てにしたもので、これが絶妙に上手い。これだけでも大満足であった。面白かったのが、テーブルの上に普通に置かれていた伝票刺しのようなもの(いや、伝票刺しそのものかもしれない)。これがどう使われているかというと、箸袋を刺すのである。散らばらないようにする知恵なのであった。これまた文化の違いにびっくりであった。
さて、まだまだ時間はたっぷりとある。なにをしようかと悩んだ末、せっかく太陽も出てきたので、昨日はあまりきちんと写真が撮れなかった龍山寺に再度トライしてみようということになった。
折しも本日はお釈迦様の誕生日とあって、人混みはピークに達している。まさに身動きのとれない状態、というと大げさすぎるが、昨日よりも確実に人は増えている。そしてお参りの人だけではなく、野宿生活者的風体の人や、そこまでは至らないまでもあきらかに自活できていそうにない人なども集まっている。また、おそらくスリやかっぱらいなどもいたはずだ。
そんな人混みの中、写真を撮ろうとする努力もしたが、どうにもシャッターチャンスを狙う状況ではないと悟り、お参りモードに心を切り替える。線香を受け取ると自分の幸せと世界の平和を結構本気でお祈りするのであった。
龍山寺から歩いてすぐのところに華西街夜市がある。で、そこに行ってみることにした。夜市といっても屋台街ではないことは昨夜に学んでいたが、ここはアーケード街になっている。地方の若干寂れたショッピングモールみたいな感じである。もちろん寂れているのは、まだ人が集まってくるピークになっていないせいだとは思うが寂しい感は否めない。ともあれ、マッサージの店や、衣料品や、土産などが売られているところをぱらぱらとのぞき歩く。大人のおもちゃ屋があったので除いてみたが、日本と大差はなく、どこも一緒なのだなぁという妙な感慨を持った。場所がかつての色町街だったせいもあるのだろうか、時折、「女の子いらない」ときかれるのが、鬱陶しかったし、そういう風に観られるのがまたシャクだった。が、それは、そういうことをする人が多いということの裏返しなのだと思うと、それでまた気が滅入るのであった。オレって意外とモラリストなのだなと自分でも驚いた。
そんな中、一服の清涼剤的な店があった。マジカルショップというか、占いグッズの店らしいが、ここがもう節操がないというか、手広いというか、陰風水、陽風水、仏教、密教、仙道、道教、ここらへんはまだ判るが、西洋占星術、経絡、ツボ、ダイエットと、もうなんでもあり。しかも店構えはあくまでも普通の、昔からやってます風の風格の感じられないでもないたたずまい。うーん、こっちのマジカル関係ってそういう扱いなのか? と、くらくらきた。そして風水盤を使用した掛け時計には、物欲ホルモンがどんどん分泌して、かなり悩んでしまった。結局、買わなかったのだが、次に来たときは買ってしまうかもしれない。
そういえばこの街で気づいたのだが、台湾といえば、檳榔売りなのだった。いったん気づいてしまうと、次から次へと見つかるもんで、街のそこここで、せっせと葉っぱに包む作業をしている姿を見た。しかし、実際に売れていくさまを見る機会はほとんどない。結局、ここの街角でおじいさんが買うところを発見したのが唯一だ。なのに、店自体は本当に多い。不思議ではある。
ちなみに、ガイドブックによると、檳榔売りは客寄せのために若い女性が店番をしていることが多いと書いてあったが、自分が見た限りでは、おばちゃんやおっちゃんのほうが圧倒的に多かった。とりあえず違法だからってことで、大っぴらにできなくなったのということだろうか。そんなことないか。単に売り子、と、愛飲者が高齢化しただけってことなのかもしれない。いずれにせよ、オレは手を出すつもりはないのでどうでもよいのだが。だって習慣性のあるものなんてやったら怖いじゃあないか。