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さらに天気は上々になってきた。写真もいけそうだぞ。でもどこに行こう、とひとしきり悩み、結果、中影文化城という名前は豪勢な台北の映画村に行ってみることにした。ガイドブックでは古い街並みを再現しているそうで、フォトジェニックな感じがしたからだ。
ところが、これが、ああ、なんだかなぁ。と着いた瞬間そんな気分になった。聞くと見るとじゃ大違いの典型で、要するに、古びたテーマパークといった様相。他に客もいない。いや、まったくゼロとまではいかないが、パラパラというにも程遠いお寒い状態なのだ。アトラクション(といっても大した物はない)によっては、お客はオレひとりだったりするのだ。もはや寂れてる感は消しようもない。正直、今日明日廃館してもおかしくない雰囲気なのだ。もっとも、これはこれで滅多にない経験ではあるので面白いともいえる。まあ、格安とも言い難い入場料千円也(概算)に、如何に価値を見い出せるか、ということなのだろう。
オレとしては、3D昆虫館がツボにはまったのでとりあえずはよしとした。これがちょっと意表をつかれたアトラクションで、3Dというくらいだから、映像系なのかなと思ったら、これが、360度のモニタにたっぷりの台湾生息の昆虫を見せられる。ここまでは普通なのだが、この後がビックリで、実物数百倍、数メートルオーダーの昆虫の動く模型が観客に迫ってくる。そりゃ確かに3Dだけどさ。そのとおりなんだけどさ! こんなプリミティブなアトラクションを誰が想像するだろう。かなり驚いた。その企画の突飛さに、だ。オレは、寂れたみすぼらしさの醸し出す終末感的施設は楽しめないタチなのだが、この昆虫館だけはよかった。楽しめた。まあ、だからといって人に「行ってみてよ」と勧める気にはならないし、オレ自身リピートするかといえば、まあ、もういいよね、というところである。
結局、小一時間くらいしか見るべきものがなく、フォトスナイパーと化す予定は大幅に狂ってしまった。
これからどうしたものかとしばし思案。
そういえば、ここから故宮博物館は歩いていける距離ではないか。もともと行くつもりはまったくなかったのだが、こうなると救いの神である。さっそく先を進めば、5分程度で到着する。入口からでも確かにでかい建物であることがわかる。なんといっても世界三大博物館と名乗るだけのことはあるわい。などと独り言をいいながら、入っていけば、さすがの超観光地、すごい人混みである。しかも日本人、しかも女子学生がとっても多い。修学旅行なのである。別に嬉しいのではない。むしろ逆で正直なところ小五月蠅い集団と一緒になるのは閉口なのだ。というわけで、そそくさと一団とは離れ、なるべく人と人の間隙をぬっていくような形で観覧する。もちろん、要所ようしょは観光グループについているガイドからの話を脇から貰い聞きするのだ。
博物館を徘徊してわかったのは、やはり銅器や青銅器などの保管量で、ゲップが出るほどである。展示物は確かにすごいと思わないではない。歴史的価値はあるのかもしれない(いや、あるのだけれど)。これがあった時代にはオレなんかいなかったんだよな、と思うとその存在の重みは感じられた。しかし、それだけだ。歴史的価値に対して興味のまったくおこらないオレは古いからといって、ありがたがるようなことはない。単なる古い銅器、それだけでしかない。感情に訴えかけてくるものがなかったのだ。
そのとき感じていたのは「こうやって、ただ見せ物として飾られているのは、器としては幸せなのかしら」ということだった。「器は使われてナンボなのではないかなぁ」と、そういうことた。もっとも、自分のことを振り返ってみれば、「これはちょいとお高い器だからねぇ」といって、普段は平凡な安皿を使うのだから、あまり偉そうなこといえる立場ではないのである。
もうひとつの見どころとされている、象牙細工彫刻や翡翠細工彫刻については、確かにその精巧さやそこにかける労力には驚くべきものを感じなくはない。しかしだからといって堪能したかといわれると、これまた「?」なのである。つまり、あくまでも努力賞的存在で、オレ的な芸術的好みではない、ピンとこないのだ。なんとわがままな、と我ながら思うが、芸術美術なんて所詮は好みで見るものだからね。
そんなわけで、けっきょく故宮博物館はオレ向きではないなぁ、というのが結論であった。唯一、これはいいじゃん、と思ったのはは甲骨占と甲骨文の展示。結局、どこまでも民俗学系であり理科系なのである。
ところで、展示ではないのだが、4階にある喫茶室はシステムが面白かった。ここでは、お茶を注文するのではなく、茶葉や茶菓子を購入して、お湯はでっかいサーバーから、自分で給湯するのだ。逆にいえば、何杯でも好きなだけお代わりしていいですよ、ということだ。やはりお茶の国なのだなぁ。と感心した。
最後に、お約束のとおり、ミュージアムショップに寄り、博物館に来て一番真剣になる。かなり鵜の目鷹の目であさり、ネクタイやらハンカチやらを購入。オレはグッズな人でもあった。